『トヨタ自動車初の営業赤字見通し〜これを契機として着実に経営再構築を!』

■┓ トヨタ自動車〜初の営業赤字見通し
┗┛ 09年3月期連結業績
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トヨタ赤字決算の原因は、無理なグローバル化  22日、トヨタ自動車は2009年3月期の連結営業損益が初の赤字 に転落する見通しになると発表しました。  トヨタでは今月に入り、米国ミシシッピ州で建設している新工 場の操業延期や富士重工業と共同開発を進めている新型の小型 スポーツ車の生産・商品化を先送りする方針を固めており、景 気減速の中厳しい舵取りを迫られているとのことです。  調べてみると、かつてトヨタ自動車工業株式会社(自工)とト ヨタ自動車販売株式会社(自販)に別れていた工販分離の頃は 別として、1982年に両者が合併して以来、トヨタ自動車「初」 の赤字転落ということです。  確かに私がコンサルタントになって既に37年〜38年経ちます が、なるほど私の記憶する限りトヨタが赤字になったことは一 度もありません。  それどころか思い出されるのは、95年に1ドル79円という水準ま で「円高」が進み軒並み輸出関連企業の業績が悪化した際も、 トヨタは黒字決算だったということです。トヨタという企業の凄 さを感じた出来事でした。  それほどのトヨタが何故赤字に陥ったのかというと、その理由 は「無理なグローバル化」にあったと私は思っています。  トヨタは世界各地に数多くの工場を稼動させています。トヨタ 100%出資の工場もあれば、現地企業との合弁の工場もあります が、その総数は約50にのぼります。 ※「世界各地のトヨタ工場」チャートをみる → http://vil.forcast.jp/c/akhYan793b6cs8ae  いかに世界のトヨタとは言え、これだけの急速なグローバル化は 無理があったのではないかと私は見ています。  かつて大東亜戦争において、旧日本軍が中国大陸・東南アジア・ 太平洋の島々へと勢力範囲と戦線を急激に拡大し過ぎて失敗し たという事例と同じ理屈です。  ただし、トヨタの場合には「赤字決算=経営危機」という図式 にはなりません。これだけの設備投資をしているので、逆に言う と減価償却費の割合が極めて大きくなります。  だから赤字とは言ってもキャッシュが不足しているわけではな く、同じ「赤字決算」でも、キャッシュフローが回らずに経営 破綻に追い込まれる寸前である米国のGMとは全く違う状況だと いうことです。 ●赤字決算を契機として、様々な経営体制を整えるべし  では、今後のトヨタはどのような戦略を採れば良いでしょうか? まず注目すべきは、先ほど説明したトヨタの「強み」です。  実際の手元にあるキャッシュは2兆円ほどですが、減価償却費 が巨額なため、会計上の利益が減少し、手元に残るキャッシュ は増えるということです。  この点から考えれば、競合他社に比べてトヨタは圧倒的に有利 な立場にあります。ですから、私なら「持久戦」に持ち込むと いう発想をするでしょう。  商品として質の良い自動車を作ることは勿論ですが、広がりす ぎている商品ラインアップを整理します。  R&D(研究開発)も省エネカーやエコカーなどの分野は残しつ つ、その他の分野は数年間予算を絞ります。そして、今回の赤 字の原因になっている世界に広がりすぎた工場も休業させます。  ただし、体力の回復と市況の変化を待ち、回復の兆しが見えた らいつでも急速解凍して復旧できる準備を整えておくようにし ます。  トヨタの強みを活かし、今の状況から脱するためには、こうし た持久戦に持ち込むことが一番堅実であり王道だと思います。 ただ、もっと単純にトヨタを「黒字」にする方法もあります。  それは広告宣伝費の削減です。現在トヨタは莫大な広告宣伝費 を使っています。どのテレビ局を見ても最大の広告主はおそら くトヨタでしょう。  極端なことを言えば、私なら1年間広告宣伝費をゼロにしても 良いと判断します。  今トヨタが全面的に広告宣伝をやめても、トヨタの名声に傷が つくことはないですし、ユーザーのトヨタに対する認知が劇的 に下がることもないと思うからです。  広告宣伝費「ゼロ」は極端に過ぎるというなら、5分の1程度 に削減するだけでも十分です。それだけでも、黒字決算に転換 することはできます。  トヨタには十分な強みがありますから、こうした堅実な方法で 十分な回復が見込めると思いますが、1つだけ私が懸念してい ることがあります。  それはトヨタの発想がステレオタイプで時代遅れになっている のではないかということです。今回先送りとなった富士重工業 と共同開発を進めていた新型の小型スポーツ車の生産・商品化 についても、私は前々から懐疑的でした。おそらく、このまま 売り出しても上手くいかなかったのではないかと思います。  トヨタは20代の若者の車離れという状況に対して、低価格帯(200万円以下)のスポーツカーを作ることで若者の車離れが 戻ってくると考えているようですが、これは大きな間違いだと 思います。  私は日本におけるレクサスの販売でも、トヨタが若者のニーズ を掴みそこねているのではないかと批判しましたが、これも同 じ発想です。もはや「若者=スポーツカー」という時代ではあ りません。  トヨタが世界随一の優良企業であることは疑いありませんが、 最近のトヨタを見ていると、セグメンテーションが不得意で、 市場のニーズを掴みきれず、若干ステレオタイプの考え方が強 すぎるところがあると思います。  そういう意味では、今回赤字決算に陥ったことは、トヨタにと って頭を冷やし一息入れる良いタイミングになるでしょう。  赤字決算とは言っても、GMのような経営危機に陥ることはな いでしょうから、焦らずにこの期間に様々な経営体勢を整えて もらいたいと思います。  日本を代表する世界に誇れる企業として、トヨタが再び黒字転 換して、大きく成長していくことを期待しています。   以上